現象の奥へ

【詩】「L'APRÈS-MIDI D'VN FAVNE(半獣神の午後)」

「L'APRÈS-MIDI D'VN FAVNE(半獣神の午後)」

プルーストならすらすら読めるが、

マラルメはそうはいかない

というのも、

ラテン語が斜めに横切ってくるからだ

UをVに代えればラテン語になる。

そして脳内は

バレエの空間となる。なぜ、

半獣神は午後を愛したか。それは、

誰も知らないひみつの午後。

大学を卒業して地方紙に勤めたばかりの私は

利賀観光のバスに乗り

利賀村に向かっていた。そこで、

演出家鈴木忠志がたいへんな芝居を行うからだ

見終わったらすぐ帰るというわけにはいかない

平家の落人部落だ

どこかの民宿に泊まらねばならない。もちろん

宿は取ってある。バス後部に少し髪にカールが入った感じの

黒いポロシャツを着た中年の男性がいて、

私のすぐ後ろだったか、その後ろだった。

そのひとが声をかけてきた。

「すみません、窓をあけていただけますか?」

小さな男の子を連れていた。

その子が気持ち悪くなったのだ。

このぐねぐねの山道は、幼児でなくても気持ち悪くなる。

私だって、気持ち悪い。

その男性の声は、やや神経質な感じだった。

実は私の方は、その男性を知っていた。

NHKテレビの「フランス語講座」の

講師だったからだ。

そのひとが訳したマラルメをいま、読んでいる。

そのひとも数年前だったかにお亡くなりになった。

劇と語学と、

そのひとも、マラルメも考えていた。そう

ちょうど

マーク・ザッカーバーグが、

FaceBookという

アイビーリーグの大学生たちの

マッチングアプリ

アルゴリズム

実際のプログラミングとを

考えていたように。

ときはそのように移ろい、

平家が最後を迎えた

あの海のわりあい近くに住み

今日は、

半獣神はなぜ

「午後」なのか

考えた。

ラテン語のサインは