現象の奥へ

【詩】「アジャーニを探して」

「アジャーニを探して」

 

自室に放り出してあった

シムノンの薄いペーパーバックが眼に入ったとき、ふいに

イザベル・アジャーニを思い出した。

最近はなかなか見ない、1955年生まれの

フランスの大女優だ。

トルコとドイツの混血で、

フランス人からは、

「アラブ」と思われている。

黒い髪と青い眼

子供の頃通った、小学校わきにあった、いかがわしい駄菓子屋

の娘に似ていたような

シムノンで? なぜって、映画のなかで、

彼女を追う初老の探偵が

クロスワードパズルにハマっていて、

エスカレーターに乗りながら

考える。クロスワードのますに埋める単語を

口に出しながら解いていく

途中で考えあぐねると

すれ違いざま

反対側の下りのエスカレーターの女が

その答えを口走っていく

彼女こそ

彼が追っていた犯人

果たしてなんという映画だったか

そのシーンのみ覚えている

Yahoo!映画でアジャーニの作品リストを

みると、探偵に追われる映画があった。

死への逃避行

評価も低く、見ているひとも少ない映画だった。

記憶の細胞の奥へ

わたしも探偵になって

アジャーニを探していく

 

 

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