現象の奥へ

【詩】「外伝」

 

「外伝」

 

それはむかしむかし、葦の葉をより分け、

すすんだ記憶もかなたへ消えかけた夜、

ひとり岸におりたって、おとこを知らぬおとめが、

身ごもったといううわさ、

は、ひとびとの気持ちを、なぜか、

明るくさせた。

奴隷たちのことばさえまだ、成立しておらず、

権威も体系も、

うわさよりは弱々しかった。

わたしのおなかに、赤ちゃんができたの?

そう。そして、この老女の腹にも。

じゃあ、いっしょに産みましょう。

鐘が鳴り、鐘が鳴り、

大天使はあくびをして飛び立った。