現象の奥へ

【詩】「T.S.エリオット」

「T.S.エリオット」

 

長いあいだ、T.S.エリオットの肉声を聴き続けている。

氏が朗読するCDをiTuneアプリに入れて、何代ものデバイスで聞き続けた。だから、

そらでも、氏の声を再現することができる。

『荒地』という詩集は、日本ではかなり誤解されている、と思う。

それは、イングランドの歴史の一部と、氏の水死した男の恋人との、

にがいメモである。そこに入るのは、

民俗学アーサー王伝説、夢のような土地、

もちろん原文でも読んでいるが、最高の訳は、

吉田健一氏の訳である。

五部に分かれた最終章近く、吉田訳はこのように書いている、

「私はかういふ断片で、自分の崩壊を支へてゐる。」

意味を手放せば、ひとは解放される、

ひとであることから。

今年二〇二二年は、この詩が書かれてちょうど百年にあたる。