現象の奥へ

『パンとサーカス』(島田雅彦著、2022/3/24、講談社刊)──阿部和重の『オーガ(ニ)ズム』をおすすめします(★)

パンとサーカス』(島田雅彦著、2022/3/24、講談社刊)──阿部和重の『オーガ(ニ)ズム』をおすすめします(★)

 

 プロの作家は、たいていの場合、新人賞を通過し、ここで、筆力というものが問われる。しかし、この島田氏の場合、コネで文芸誌に載り、それが、拍手喝采注目され、しかも、篠田一士という大御所に気に入られたものだから、イケメン(還暦すぎた最近では、腹も出てきたようであるが(笑))ということもあり、今日までなんとか「人気作家」(?)として、なんとか作家として生活してこられたと思う。しかし、篠田一士も、ボルヘスの訳(たとえ夫人の専門分野の、英訳から?が、疑われるとはいえ)はなかなか読ませるものの、こと詩の読解(詩に関する本を何冊か出している)に関してはイマイチである。

 島田氏の場合、ちゃんとした文章修行をしてこなかったので、文章は、三十年以上前のまんま、ストーリー展開も、一般人で教養のない人々が尊敬する(笑)ような用語や、知識を披露しているだけで、本書など、聖書のパクリか、アレゴリーか知らんが、ちりばめているだけである。

 ぐだぐだと陳腐なことを並べているだけで、これで長編小説になっているのは、新聞小説だったからである。ネタ本かどうか知らないが、ここに描かれる場面などは、以下の「参考資料」などが想像される(笑)。

 

1,『パンとサーカスのなんたら』(二十年以上前の勁草書房の単行本)

2,『CIAはなにをしていた』(新潮文庫、映画『シリアナ』の原作)

 

なお、「パンとサーカス」とは、詩人ユウェナリス(西暦60年- 130年)が古代ローマ社会の世相を批判して詩篇中で使用した表現。権力者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によって、ローマ市民が政治的盲目に置かれていることを指摘した。パンと見世物ともいう(wikipediaより)

こんな本を読むなら、ちゃんとした小説になっている、阿部和重氏の、日本人とCIAに関する物語、『オーガ(ニ)ズム』(2019)をおすすめします。阿部和重氏は、群像新人賞よりデビューしています。島田氏との筆力の差は、歴然としたものがあります。