現象の奥へ

『ベイビー・ブローカー』──自己模倣の下降スパイラル(★)

『ベイビー・ブローカー』(是枝裕和監督、2022年) 

 

 どんな世界でも一度話題になり名前が出てしまうと、その後、その人のキャリアの終わりまで、誰かは見て、なにか言ってくれ、なんらかの賞までもらえる。しかし、真の観客は失望し続ける。それを体現しているのが、脚本、監督、編集を、一人でやっている、是枝裕和氏である、すべてひとりでやっていることを、物静かに語るのを、NHKのクローズアップ現代で見て感心し、作品を見に行ったが、自分の考えは間違っていた。むろん、すべてを一人でやるのが間違いでもないのだろうが、なにか「是枝裕和の世界」になってしまっていて、そこには、妙に自信に満ちたナルシシズムさえ漂っている。

 赤ちゃんポストは日本にもあった(ある?)が、韓国にもあって、置いて行かれる赤ちゃんは、韓国の方が多いと知って、関心をもち、韓国へ行きリサーチしているうちに、韓国で撮ろうという気になったと、是枝監督は言っていたが、氏の思考は完全に下降し、現代とずれ、リアリティを喪っている。主役のソン・ガンホが花を添えるが、そのソン・ガンホさえ、腐った鯛になりつつある。

 どこにも新しいところはなく、是枝得意のロマンチックな音楽が、どこといって特徴のない韓国の地方都市を、意味ありげに流れるだけである。