現象の奥へ

【詩】「メモリー」

「メモリー

人生でいちばん最初に飼った犬は近所で生まれたスピッツとおそらく雑種との混血で何匹か生まれたうちのその犬だけ、白い毛が短めだった。

わんわんウルサイのでベルと名づけた。
一年もたたないうちにジステンパにかかって死んだ。実際、ジステンパかどうか。とにかく死んだ。外で飼っていたので、凍えて死んだのかも。

六十年くらい前の庶民の家は犬は基本外飼いだった。私は小学三年だった。
それから何匹も、犬も猫も飼った。病気になっても医者に行くことはなかった。餌は残飯に味噌汁をかけたものだった。
猫も放し飼いなのでよく車にひかれた。
Catsの「原作」である『老オポッサムの実用猫の本』は、
T.S.エリオットのなかでも難解な作品だ。
それをもとに演出家のトレバー・ナンがミュージカルにしたのだが。
町中を「犬殺し」と呼ばれる野犬狩りのリヤカーが堂々とゆく時代だった。

ペット可のマンションに移った時からまた犬を飼い始めた。これまで死んだ犬たちへの鎮魂のために、大切にした。
固有名が重要であると、エリオットは言ってるそうな。かどじま、ごうじま、ぱんきー、ごどー、
遠州のお茶工場に流れるお茶の香り。
モリー