現象の奥へ

蓮實重彥著『ゴダール革命』(2023年2月、筑摩書房刊)

蓮實重彥著『ゴダール革命』(2023年2月10日、筑摩書房刊)──どうするゴダール

 特別新しい本ではなく、2005年に出た本の増補版である。

「どうすればよいのか」。人は優れてゴダール的ともいえるこのつぶやきを、処理しがたい難問を前にしてみだりに口にしたりはしない。それを問題として成立せしめる文脈が把握しがたいときに、そうつぶやかざるをえないのである。(「プロローグ 時限装置としてのゴダール)(本書より)

 ゴダールのような映画作家は、映画のなかにどこで爆発するかわからない時限装置を仕組んでいると、著者の蓮實氏は書いている。氏の映画論はかなり読んできて思うのは、華麗なる形容に魅せられる。文学論はまったく魅力を感じないが(笑)。
 結局、ゴダールの映像は言葉なのだと思う。その反対に、スピルバーグは言葉では表現できない映像を映画で表現している。最新作の自伝風の『ファイブルマンズ』の冒頭も、はじめて映画を見た男の子が、寸前の現実の列車を自分の頭のなかで映像のなかにいれてしまうというような精神的なできごとを映像化してしまったすごさにうなった。
 映画評論から出発したゴダールは、結局、どこまでいっても言葉である。それはそれですごいことなのだ。ゆえに題名が、作品のすべてを物語っているとも言える。
 ゴダールを失ったことは大きな欠落であり、その重大さが、本書の題名に現れている。