現象の奥へ

【詩】「ダンテ」

「ダンテ」

うとうとしていたら、ダンテが夢に現れて、
日本語で言うのだった──
こら、おまえ、
わたしの経験によれば、
詩の鑑賞は
その詩人や仕事について、
知らなければ知らないほど、
理解できるものなんだ。
だからさ、その詩人について、
歴史的背景などをよおく知ってから読むと、
結局、あんまり味わえなくなるものさ。
わたしはラテン語ギリシア語など
全然知らんかったから、それがさいわいして、
ダンテをおもしろく読むことができた。
当時の学のない民衆とおんなじようさ。
あは、もしかして、ダンテそのひとではなく、
T.Sエリオットさんですか?
あはははは……
だから、ダンテを読みなさい、今から
今から? いきなり?

Nel mezzo del cammin di nostra vita
mi ritrovai per una selva oscura,
che la diritta via era smarrita.

それはデリダが母を恋しがる声に似ていた。
わたしはすでに夢に入っていた。