現象の奥へ

【詩】「古今のなかの萬葉」

「古今のなかの萬葉」

大伴家持が、天平宝字三年(七五九年)
にまとめたと言われる万葉集は、
四〇〇年ぶん、四五〇〇余首。
一五〇年経って勅撰の世となった
古今和歌集(九〇五年)に、萬葉の柿本人麿
登場すなり。
わがやどの池の藤波咲きにけり山ほととぎすいつか来鳴かん
よみ人知らずとなって
あらわれ、
いのちないのに正三位を付されている。
われらから見れば、
千数百年前の一五〇年である。
短いといえば短い時間。
この間和歌はかえりみられず、勅撰されていたのは、
もっぱら漢詩集のみ。
ここまでは、国文学者の片桐洋一氏の研究。
わたしは、人麿が霊となって、
飛んできたとイメージした。
「古今」は、和歌のために、「萬葉」が必要だったのである。
さ夜中と夜はふけぬらしかりがねの聞こゆる空に月わたる見ゆ(『古今集』)
さ夜中と夜はふけぬらしかりがねの所聞空(きこゆるそらを)月わたる見ゆ(『萬葉臭』)
「われわれにはことばしかない」(サミュエル・ベケット