現象の奥へ

【詩】「限海」

「限海」

 細田傳造に捧ぐ

傳ちゃんが二人で、やっと倍傳
なんつって(笑)。
傳ちゃんごめんね。私あの人のことあんまり知らんかったのよ。すぐアタマに浮かんだのがあの詩集だった。昔は感心したものだった。あんな詩書けへんわと思って。しかし何十年も過ぎてみると、どーってことない詩だった。泳げや泳げこの海を。てなてなもんやてなもんや。ベケットポール・エリュアールの詩を英語に訳したのを読んでいて、ベケットって翻訳するのがすきだなと思って、この詩を思いついた。なんでもほんとうに思ったことを書かなだめなんよ。つまりあの人はベケットにははるかに及ばないひとで、私はなんとか迫ってみようと思ってる。私の方が志高いやろ? みんながそんな野心を持つ私のことを馬鹿にしてるのはわかってる。ハードカバーの詩集一冊もないくせに、とか。ハードカバーがなんやねん。ほんとうに思ったことを書く、これが結構難しい。こころは激しく変化するから。
Scarcely Disfigured
Farewell sadness
Greeting sadness
これはエリュアールの詩の英訳だ。
泳げや泳げ、記憶の海を。改変されない記憶。
真新しいまんま保存されている記憶。
新型コロナ五類に移行するに及んで、当初から私財をなげうって研究協力されていたノーベル賞学者の山中伸弥先生のサイトは終わるそうです。センセイ曰く、科学はあまりに複雑すぎて正解は神のみぞ知る──。その神も。人間という概念もやがては終わる、とミシェル・フーコーも書いている。偉そうなやつが偉いに決まってる。きっと。