現象の奥へ

【詩】「ピカソの『腕を組んで座るサルタンバンク』を模写して」

ピカソの『腕を組んで座るサルタンバンク』を模写して」

「ヴァン・ゴッホ(60色)」という名の色鉛筆で、ピカソの「腕を組んで座るサルタンバンク」という絵を模写しようとして、サルタンバンク(旅芸人)の赤い衣装の赤のために、色を選ぼうとして、まず、もっとも赤いと思われる、Perm red deepを選び、さらなる深みを表現したくて、Scarletを重ね、光を帯びさせたくて、Perm red lightを滑らせ、Perm red mediumも加えてみる──。かくも多き赤の迷路に踏み込みつつ、ほんとうは固定した色があるのではない、光の反射なのだと思うとき、埋まっていく赤の光の迷路に惑わされ、思考の方向を失う。そして気がついてみれば、ピカソとダンスを踊っているのである。そのようにして絵画はあることを教えてくれるので、私はときどき模写に誘われる。人間であることに感謝する楽しい行為だ。ただ上っ面を眺めて過ぎる「客」に同情する。