「恋」
ドサ回りの芝居を一丁目公民館で見たとき、
そのまさに水も滴る旅烏の黒々とした目張り銀粉を少し付けて濡れたように見せている赤い唇に惚れて、
すでに創られた色男なれど胸をときめかした小学生、
あの時知った、異質な者を体内に取り込もうとする
夢の感情を恋と言い、すでに
現実ではないこと。しかし、まったくの無でもない。
「在る」こと、確実にあること、しかし
現実の文脈ではどうにも読み解けない
ランガージュによって支配されながら
なおもパロールであり続けようとする
怪しい心の動き
そうだ、
見世物小屋の入り口の中腰でしか立つことのできぬ長さの鎖につながれた、
猿に恋したこともあった。