現象の奥へ

【詩】「詩人」

「詩人」 生まれてこのかた得た語彙を使い、 ある感覚を信じて展開するのは、整合性のある文章ではなく、きれぎれの 断片。ポオなのかシェークスピアなのか、 それとも、自称映画監督のジジイか 詩人よ、そなたと時との競争は、 はじめから悲惨な結果がわか…

【詩】「新型コロナ・ウイルス」

「新型コロナ・ウイルス」 細胞の突起の形が王冠に似ていたから、スペイン語からそう名づけられた。 昔から存在していたが、「新型」と呼ばれたのはすでに変異していたから。 かといって、生物ではない。 まるで意志があるかのように動く。 しかしきみだって…

【詩】「仮説」

「仮説」 物質とはわれわれにとってイマージュの総体と、かのひとはいふが。 いま宋では月明かり美しい夜がひとの、 心を撓わにゆらしてゐる。 観念論でも実在論でもなく、 イマージュはイマージュとしてそこにある。 事物と表象の、 宇宙は割れて、 恋なの…

【詩】「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」

「豚とカツオの鎮魂のためにボードレールを」 人間の、しかもジジイのための、心臓移植に使われる心臓を提供させられた豚よ! かわいそうに! やすらかなれ! たって、やすらかにできるわけもない。 一方、焼津では、漁師が捕ったカツオを、魚魚組合関係の業…

【詩】「あるいは裏切りという名の犬」

「あるいは裏切りという名の犬」 題名はフレンチノワールの映画の題だ、ダニエル・オートゥイユという俳優が出ている。 原題は、36 QUAI DES ORFEVRES オルフェーブル河岸36番地、つまり、パリ警視庁の住所。 警視たちが、次期長官の座を争って、どんどん…

【詩】「平家物語」

「平家物語」 平清盛は、2022NHK大河では、松平健が演ずるが、いかにも悪そうな風貌、 対する後白河院、いかにもずるそうな風貌は、もうめちゃくちゃに皺の寄った、西田敏行扮する。 清盛の妻の妹が後白河院とのあいだに産んだ子を天皇とし、清盛の娘を、そ…

【詩】「明月記」

「明月記」 頭上に残る白雪は、なぜか、南極に残された太郎次郎を思わせる。 内の殿上を許されるのが生涯最大の夢、 とは虚しき。 ウイルスはなお大暴れ、しかし、平家は壇ノ浦に消え、 テレビドラマは『鎌倉殿の十三人』。この、 13という数字、いかにもエ…

【詩】「ソシュールの『一般言語学講義』」

「ソシュールの『一般言語学講義』」 それは1916年に出版された、学生たちのノートを参考にして。 ソシュールはそんな本の原稿を書かなかった。 しかしそれは、現在使用されるすべての言語の、 構造をあかした。 ことばには、パロールとラングがあり、 こと…

【詩】「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」

「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」 「若しトルストイが『永遠の良人』を書いたら、この作品は、恐らく二倍の分量になってゐた」 「ドストエフスキイは、前篇的顚末をものの見事に割愛してゐる」 突然の主人公たちの邂逅と重い背景。 この手法を、池…

【詩】「双六」

「双六」 一枚の紙をひろげれば、できあがる世界。 切ない年始めのこころを受け止める。 骰子ふり出た目の数をすすめば、 骰子一擲ネバーネバー同じならずの声。 「おんな双六」なるもののあがりは、 「奥さま」 紋のある羽織を羽織ってかしこまった奥さまの…

【詩】「プルースト」

「プルースト」 それは魔法の言葉。 André Dussollierが読むプルーストを聴く夜、 しぶんぎ座流星群が静かに落ちかかる準備をしている、新月の次の日。 ゆえに、しぶんぎ座流星群はよく見えるらしい。 昏さが温かさに変わる夜、世界のために祈ろう。 とりわ…

【詩】「Let us go then」

「Let us go then」 T・S・エリオット自身の絡みつくような肉声を聴いている。今夜は、The Love Song Of J.Alfred Prufrock。 夕暮れが空いっぱいにひろがり、誰かは急いでいる。 安ホテルに一夜だけの宿をとり、どこかの窓辺では、 女たちが行ったり来たり…

【詩】「ロリータ」

「ロリータ」 それは朗読するジェレミー・アイアンズのくぐもった声。 白いソックスの少女の幻影。 実態のない、ただの音。それから、 アルファベット。遠い記憶の、 ナボコフの講義の原稿。 ポルノグラフィーに隠された知性。 いつでも、人生に疲れた、萎え…

【詩】「新年の手紙2022」

「新年の手紙2022」 ねずみ、ゴキブリ、ウィルス、酵母、 懐かしい地球の思い出。 たとえ人類がきみたちを忘れ、 きれいごとに走ろうと、きみたちのことを、 私は忘れない。 その昔、ゲイのイギリス人がいて、 性的自由を求めてアメリカに渡った。その昔、 …

【詩】「ロミオとジュリエット」

「ロミオとジュリエット」 炎のかげに潜む欲情を恋人たちは、 まだ知らない。 指と指がつくる門を くぐれば罪が洗われる、お返しは、 もうひとつの口づけ。 二度と会えぬ死へと押し出される、 運命のきらめき。そう、わたしたちは、 そのカップルほど若くは…

【詩】「王」

「王」 かつて、蛙であったもの、 小屋で窒息させられ、 少女とともに、餓死させられ、 それでも蘇るとしたら、 それは概念の合成で、王と、 神が、合体させられている。 人間を許し給え、伝説の濃さで、 歴史を塗り込めれば、犠牲の山羊が王としてよみがえ…

【詩】「外伝」

「外伝」 それはむかしむかし、葦の葉をより分け、 すすんだ記憶もかなたへ消えかけた夜、 ひとり岸におりたって、おとこを知らぬおとめが、 身ごもったといううわさ、 は、ひとびとの気持ちを、なぜか、 明るくさせた。 奴隷たちのことばさえまだ、成立して…

【詩】「物語」

「物語」 勧善懲悪の思想を教えるものでなく、 仏法を説くものでなく、教訓を旨とするものではない。 ひとの情のありのままを記して、ひとの情とはこういうものだと知らせる。 ひとの情を知るとは、あはれを知ることであり、 つまり物語を読むとは、もののあ…

【詩】「篝火(かがりび)」

「篝火(かがりび)」 ぼくはこの箇所がいちばんすきなんだ、 あなたはいきなり言った、サイデンステッカー英訳二巻本の一、 Chapter 27、Flaresの部分を開いて、 They burn, these flares and my heart, and send off smoke. The smoke from my heart refus…

【詩】「源氏物語」

「源氏物語」 なにかを出すまえに出す物語。 奥に隠されているのは蛍、 の舞う漆黒の欲望。 ソネットでなければならず、葬られなければならず、 十手先を読むAIの世界の殺人。 哀しいのか欲しいのか、女の名は隠され、 ただ、風の音にあなたの愛を読む。 死…

【詩】「ねぶか」

「ねぶか」 マンションの通路でお向かいの奥さんから 「ねぎいりませんか?」 と言われ、 「いります」と答えた、 なんでも山梨の叔父さんの家庭菜園で取れたねぎを、ねぎばかり どっさり送ってきて、それも今回二回目で 困っているとか。 もらっていただき…

【詩】「固有名」

「固有名」 「人物の名を語ること、それは顔を表現することである。ありとあらゆる名詞や常套句の只中にあって、固有名は意味の解体に抵抗し、私たちの発語を支えてくれるのではないだろうか」(エマニュエル・レヴィナス『固有名』合田正人訳、みすず書房)…

【詩】

「くま」 くまという動物は、まことにかわいそうな動物だ。テディベアなどといって、愛玩用おもちゃにもなっているけど、SNSで流れてくるのは、十数年小さな檻に閉じ困られていて、はじめて野原に出た、とか、こういうかわいそうなくまはまだたくさんいるの…

【詩】「アマテラス」

「アマテラス」 あの日ローマでえー 眺めた月が今日は 都の空照らす アマテラス 新嘗祭のかしこどころ 天皇はひとり入ってく お付きたちは外で待つ 寒い夜には鴨鍋が ありがたいのよ、さっきまで 皇居の池にいたやつだ。 さて、かしこどころを入ると、 かが…

【詩】「蘭を焼く」

「蘭を焼く」 たしか瀬戸内晴美時代の作に、 「蘭を焼く」なる作品があった。 官能的な作であった。 その後、大杉栄や伊藤野枝、岡本かの子などの伝記物を書いて、 それから、「男遊びは散々したので未練はない」と今東光指導のもとに、天台宗僧侶の修行をし…

【詩】「突然のクリステヴァ」

「突然のクリステヴァ」 井筒俊彦の高野山にての講演のCDを 犬の散歩どきに聴いて、 もう何度になるか。 題して「言語哲学としての真言」 エソテリシズム エソテリック 密教 密 いっさいのアウトサイダーを拒む わたくし(井筒)は、 外側から一部覗き見た…

【詩】「恋」

「恋」 戀の至極は忍戀と見立て候、逢ひてからは戀の丈が低し、一生忍んで思ひ死する事こそ戀の本意なれ。─『葉隠』「聞書第二」 瀬戸内死んで 真子さんは小室圭さんと NYへ。 ここに日本国の恋は終わる。 あとはもぬけの殻の ゲーム。男だろうと女だろう…

【詩】「夜のみだらな鳥さえも超えて」

「夜のみだらな鳥さえも超えて」 孤児院が舞台の その小説。 障害とか差別とか資産家とか 修道女とか 聖書とか 闇とか 妄想とか まるでコロナ世界を 表現したような。 そう唖 などと言ってしまっていいのか。 ムラートとかいう名前だった? 軍事政権のチリだ…

【詩】「森」

「森」 どこかの国から逃れてきたんだけどサ、 どこの国かは忘れてしまった。 ピカソもショパンも育てたこの国へ来て 商売を始めた。 そう、この森のなか マイクロバスが衣装部屋兼寝室 兼商売部屋 マスカラだけはたっぷりと あそこの奥まで見せても 素顔は…

【詩】「アジャーニを探して」

「アジャーニを探して」 自室に放り出してあった シムノンの薄いペーパーバックが眼に入ったとき、ふいに イザベル・アジャーニを思い出した。 最近はなかなか見ない、1955年生まれの フランスの大女優だ。 トルコとドイツの混血で、 フランス人からは、 「…