現象の奥へ

【詩】「ブラッサイ、あるいは、秘部という名の宇宙」

「ブラッサイ、あるいは、秘部という名の宇宙」 駅の二階の出口は各通りへと続く歩道橋になっている。 そのすぐ出たところは植え込みになっていて、コンクリートの、 ちょっとした囲いがあり、それは、ちょっと腰掛けて座るのにちょうどいい。その一角に陣取…

【詩】「闇と書物」

「闇と書物」闇と書物。それはボルヘスのテーマだった。暗い岸に漕ぎ着けて、生い茂る蘆の中を進み、やがて、神殿あとの廃墟に到り、祈りを捧げたあと、そのものは思い出すだろう。おのれが闇であったことを。そして書物は燃え尽きたことを。難解さを抱きし…

【詩】「ボードレールのために」

「ボードレールのために」坂本龍一にはそれほど関心がなかったけれど、先日、氏が死に至るまでのドキュメンタリーをNHKで放送した。食事の後片付けをしながら流していると、しだいに引き込まれた。それは癌の末期、ほんとうに死との戦いを、克明に映しだ…

【詩】「Merry Christmas, Mr. Lawrence」

(2023.12.6に発表したものの再掲載) 「Merry Christmas, Mr. Lawrence」 記憶のなかからよみがえってくる生の すなつぶ。 スペインの最北端の 海からつづく天然のいけす のなかで泳いでいた何匹もの魚影、 それは「平家物語」に フォーカスする 鱸(すずき…

「源氏物語─The sonnets15」 「蓬生(よもぎふ)、あるいは重力の涙」 宣長『源氏物語年紀考』にて曰く、 この巻は常陸宮の姫君の事を始終(もはら) かける故に、始は源氏の君廿六歳、 須磨浦へ左遷の比より書出して、 (京に)帰給て後廿九歳の四月に此姫…

【詩】「愛されるためにそこにいる」

「愛されるためにそこにいる」男は父親と二人暮らし、女は……覚えていない。かなり忘れてしまったフランス映画だ。地味なダンス教室で出会った。どちらかの家に招待され食事をした。ダンスの難しい部分についての話になったテーブルに人差し指と中指を置いて…

「マラルメ、あるいは潮風」 「併し我々を詩から遠ざけているのは浪漫主義だけでなくて、もともとこれが退屈を紛らす手段であるならば、その原因になった生きることに対する退屈そのものの問題もあり、生きているということに就て迷うのと、生きるのをやめる…

【詩】「ヴァレリー、あるいは地中海」

「ヴァレリー、あるいは地中海」「詩がそうして我々に語り掛けて、何かを我々に伝えるのは、一般に言葉を使う時の例に洩れない。それは今日でもそうであって、例えばディラン・トオマスがロンドンの空襲で焼け死んだ女の子を悼んで作った詩は、事実、その死…

【詩】「瞳をとじて」

「瞳をとじて」ある女流作家が、Xで、自分の母の死を、「母の逝去」と書いていた。逝去とは、身分の高い人についていう言葉だ。ま、それはいいとして……ギー藤田なる映画監督とSNSで知り合った。冗談がおもしろく、どこか共通の趣味もあり、親しくなった…

【詩】「愛皇帝暗殺」

「始皇帝暗殺」風蕭蕭兮易水寒壮士一去兮不復還葱白く洗ひたてたる寒さ哉(芭蕉)易水に根深流るる寒さかな(蕪村)おのれを鼓舞するため、石に刻まれた言葉は、詩となり、日本まで来た。海は遠く、葡萄酒色。彼らはホメロスが見ていた、その色を知らなかっ…

【詩】「地獄で待ってろクソじじい!」

「地獄で待ってろクソじじい!」 某じじいの詩人が、じじい皆殺しの詩を考えて、 武器なしで言葉だけで殺したいと。 氏は、「武器」のことを、ヤクザことばの「チャカ」を「茶菓」と表現していた。なにか、ヤクザのように残虐でありたいけれど、そこまで下品…

【詩】「紫式部日記」

「紫式部日記」まず大きな疑問は、古代に、自我が、存在したかどうか。平民は、穴ぐらのようなところに住んでいた時代である。「紫式部日記」なる薄い書物は、一条天皇中宮、彰子が出産のために実家である、土御門殿に帰り、安産を祈願する僧たちの読経の声…

【詩】「さらば涙と言おう2」(阿久悠)

「さらば涙と言おう2」(阿久悠)さよならは誰に言う?さよならは哀しみに。雨の降る日を待って、さらば涙、と言おう。と、ぶっきらぼうに歌っていた学生服の森田健作は、のち、千葉県知事になった。それから、さらば、県知事職と言った。森田はいったい、何…

【記憶のなかの詩句】

【記憶のなかの詩句】「夜はいまだ、青梅の未熟さなので」(大岡信) 大岡信の詩のなかの一行であるが、演出家鈴木忠志率いる、劇団「スコット」富山県利賀村公演での、ギリシャ悲劇の「トロイアの女」か「バッコスの信女」に出てきた。看板女優、白石加代子…

【詩】「ドシウエフスキーの『永遠の良人』」

ドストエフスキーの「永遠の良人」 「一は二十年の漁色生活による、他は二十年の結婚生活による、数々の苦痛が念入りに育て上げた、爛熟した人間の心の平常な姿だ。一歩進めてと言ってもいゝ。人間四十年もこの世に暮らして、この程度の心の無気味さ持てなけ…

【詩】「ハムレット」

「ハムレット」「ハムレット」という小説をラフォルグが書いている。そのなかに、意地悪そうな目つきをした白鳥たちという表現があるが言い得て妙だ。ハムレットといえば、すぐに思い出すのは、文学座の江守徹である。アトリエの公演で「ハムレットや調子は…

【詩】「上意討ち3」

「上意討ち3」右は高輪泉岳寺 四十七士の墓どころ ひとり、赤穂への報告のため逃がしたから、実際は、四十六士。戒名にはすべて「刃」の文字が刻まれている。赤穂城城主、浅野内匠頭長矩は、殿中で刃を抜いたため、捕らえられ、駕籠に乗せられ罪人として裏門…

【詩】「上意討ち2」

「上意討ち2」以前、同じ題材について書いた。この短編の書きようが、なんともアヴァンギャルドだったのが印象に残った。それで先日、ドストエフスキーの『永遠の良人』の二人の男の邂逅場面を心に描きながら詩に書いた。二人は背負い切れないものを背負って…

【詩】「巷に雨の降るごとく」

「巷に雨の降るごとく」巷に雨の降るごとくわが心にも涙降る涙さしぐみ帰りきぬモンスリ公園のなかだった鐘は鳴れ……ええと……いずれの御ときだったのかしら?ひろひと、天皇のみよだった。いとやんごとなききわにはあらねどきわめてときめきたもうありけりは…

【詩】「Cry me a river」

「Cry me a river」闇は時間を消す、と言ってKは卓上の電灯を消した。ところで今度の事件はおれはやってきたFBIのニーチャンに聞いた。手紙が盗まれたんだ。またか。ところでラカンはなんで「盗まれた手紙」の講義なんかしたのか?それはKはそう言いかけてコ…

【詩】「源氏物語─The sonnets 14」

「源氏物語─The sonnets14」 「澪標(みをつくし)、あるいは『紫式部日記』」 『紫式部日記』は、式部が仕えている一条天皇中宮彰子が 出産のために里帰りしている土御門殿の描写から始まる ときは秋。 安産を祈願する僧たちの読経の声が オミナエシの咲く…

【詩】「源氏物語─The sonnets」12

「源氏物語─The sonnets」12」 「須磨、あるいはHélas pour moi(エラース・プル・モア(なんてこった!)」 源氏廿六歳の春より廿七歳の春までの事見えたり 宣長「源氏物語年紀考」にて記す わくらばに問ふ人あらば須磨の浦にもしほ垂れつつわぶと答へよ 業…

【詩】「源氏物語─The sonnets」12

「源氏物語─The sonnets」12」 「須磨、あるいはHélas pour moi(エラース・プル・モア(なんてこった!)」 源氏廿六歳の春より廿七歳の春までの事見えたり 宣長「源氏物語年紀考」にて記す わくらばに問ふ人あらば須磨の浦にもしほ垂れつつわぶと答へよ 業…

【詩】「不安」

「不安」不安は現実そのものである。力を持って形而上学と戦う。かつて、ドストエフスキーが地下室で戦ったように。かつて、ハイデガーが世界を構築したように。それらは、むくむくと宇宙のなかで沸き起こる闇よりも暗い、精神よりも深い、ボルヘスの恋人は…

「源氏物語─The sonnets」11

「源氏物語─The sonnets」11 「花散里(はなちるさと)、あるいは裏切りという名の雨」 雨が、せおいきれない苦悩を むらがりよせ、きみの顔を消していく 古歌に染みこんだ怨念が 幾度もわたしを襲う、もう あきらめてしまおう。きみを 思うことは、どうせ …

【詩】「Merry Christmas, Mr. Lawrence」

「Merry Christmas, Mr. Lawrence」記憶のなかからよみがえってくる生のすなつぶ。スペインの最北端の海からつづく天然のいけすのなかで泳いでいた何匹もの魚影、それは「平家物語」にフォーカスする鱸(すずき)。いつか「平家物語」という詩集をつくろう。…

「源氏物語─The sonnets」10」 「賢木(さかき)、あるいは物語が断片の集合のわけ」

「源氏物語─The sonnets」10」「賢木(さかき)、あるいは物語が断片の集合のわけ」「源氏二十三歳の九月より、二十五歳の夏迄の事見えたり」と宣長『源氏物語年紀考』にしるす。少女子(をとめこ)があたりと思へばさか木葉の香をなつかしみとめてこそおれ…

「ハムレット」文学座の江守徹の白いタイツが表す曲線が四十年前のハムレットである。そのあとだいぶあとになってから狂言役者のだれそれ名前忘れた、わりと小顔の二枚目、狂言の家の名字がついていた、その役者は板状の装置から顔を覗かせて、狂ったふりを…

【詩】「地獄は待ってくれる」

「地獄は待ってくれる」日本の書物でありながら、日本の誰もが読めなくなっていた古事記と取り組み、これは神話ではなく、まぎれもない古代人の実生活だと思いいたった本居宣長は、どこの森かはわからぬが、昏い森に迷い込み、そこで、師、契沖に出会った。…

【詩】「ラカン」

「ラカン」想像界、象徴界、抑圧、浸透、自己主張、作り話、反復脅迫、意味表現、連鎖、中心から離れた場所──わかったふりしてるあなた。やさしくみえる詩より難しくみえる詩の方がすきなあなた。Und wenn es uns glückt,首尾が上々でジョブズみたいに、自分…