「ハムレット」
「ハムレット」という小説をラフォルグが書いている。そのなかに、
意地悪そうな目つきをした白鳥たち
という表現があるが言い得て妙だ。
ハムレットといえば、すぐに思い出すのは、文学座の江守徹である。
アトリエの公演で「ハムレットや調子はどうだい?」と聞かれて、
「食傷気味」と答え、首を横にねじる。そのしぐさがおもしろいので、
観客は笑った。私も笑った。
次は野村萬斎で
全然ハマってなかった。狂言師が無理矢理新劇の芸をしている
ように見えた。
映画ではメル・ギブソン。
俳優なら誰でもやりたい役。
帰国途中墓掘り人足に出会い、笑う。
恋人のオフィーリアの墓を掘っているとも知らず。
オフィーリア、享年十八歳。
と、ラフォルグは書いている。
父を変死で失った青年の、
錯乱、心の闇。
なにもかも死で覆われている。さあ、
われらは、その古ぼけた本を開こう。
吉田健一訳の、古本屋でしか見いだせない本を。
「あなたの美しさを表現するには、シェークスピアの文才がいる」
とハムレットはまた誰かにささやいている。