現象の奥へ

【詩】「被後見人が後見人になりたがる」

「被後見人が後見人になりたがる」
 
五十年前の
『テアトロ』という演劇雑誌の
「ドイツ演劇特集」に載った、
ペーター・ハントケの戯曲である。
ハントケは前衛劇作家で、ほかに、
舞台の上から徹底的に観客を罵倒する、『観客罵倒』、言葉のない世界で育ち、徐々に言葉を獲得する少年を主人公にした『カスパー』
……などなど。
映画脚本は、『ペナルティ・キックを前にしたゴールキーパーの不安』
高校で演劇部だった私は、かなりのめり込んだ。
かなり長い時間が経ち、ヴィム・ベンダーズの映画の脚本『ベルリン 天使の歌』で一般人の前に姿を現した。そして、
ある日、ノーベル賞作家になっていた。
そのような「作家」になんの関心もないが、
無言劇、『被後見人が後見人になりたがる』は今でも
私の原点のひとつ(あとひとつは、ベケットの『ゴドーを待ちながら』)である。これは、
シェークスピアの登場人物の台詞で、
「そりゃ、被後見人が後見人になりたがるようなもんだ」
ハムレット王子の、友人の二人の会話で、
一方が言った
のかもしれない、
が、そうではないかも知れない。
言葉の調子からは、いかにもそれらしいが。
そして、オレンジ色の紙を使った、その特集号はとうに失われて、
いま「日本の古本屋」を見たら、
800円で売っていたので、注文した。
(あたりまえであるが)その時の活字、そのままで。
というのも、表紙が目次になっていて、
文字しかない。そして最後の作家が
ハントケだったので、彼がいちばん若かったはずだ。
私にとって、ドイツというのはそういう国だった。
もっともハントケは、オーストリア出身の作家だが。
そして、その「地区」は、あるいは、ナチとも関係があったのかもしれず、ベンダーズとも決裂したかもしれない。
時間は遠く、
事情は崩れ、
物理学者のメルケル
佐藤栄作のような垂れた頬が
21世紀の空間に浮かんでいるだけだ。
それにしても、
吉沢亮は、
いい男だな(笑)。
 
(こんな詩、ありますかねー? エリオットさん。
T.S.エリオット「ないとも言えないんじゃないですか」)