現象の奥へ

【訳詩】Samuel Beckett "Collected Poems in English & French"

【訳詩】

elles viennent
autres et pareilles
avec chacune c'est autre et c'est pareil
avec chacune l'absence d'amour est autre 
avec chacune l'absence d'amour est pareille


they come 
different and the same
with each it is difference and the same
with each the absence of love is different
with each the absence of love is the same


彼女たちが来る
それぞれちがっていてみんな同じ
それそれ互いにべつべつでそれぞれ似たようなもの
それぞれ愛の不在はちがっている
それぞれ愛の不在は同じである


*****

Samuel Beckett
"Collected Poems in English & French"

(PART Ⅱ POEMS IN FRENCH with some translations by the author 1. POEMS 1937-1939)



【詩】「羅生門」

羅生門

それは千年以上前の寓話で、
しかも龍之介という名の作家の
創作だった。
人心が荒れ果てた時代、
三十代の女性が半年つきあって
別れ話に逆上した八歳年下の男から逃げていた、
また三人組をいく組か形成して、
そこかしこで強盗を働くということがあり、
犯人のひとりは元自衛官だった。
その携帯のなかに、「こんど襲う家」の情報が入っていた。
警察は警戒したが、その家の九十歳の老婆は、
手足を縛られ激しい殴打のうちに死亡していた。
三十代の女の方は、刃物で滅多刺しによる失血死だった。
殴られて死ぬのと、刺されて死ぬのとどっちが痛いか?
羅生門の天井裏で死体を買いにきていた
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
ほほのニキビを気にしながら考えた。
「をい!おれの作品を勝手に変えるな!」
瓜実顔の男が言った。
「なにさ、遺書に、作品集は岩波から出してくれって?」
「わたしに芥川賞をください」
そうつぶやいた死体があった。
名前を太宰治といった。

 

【もしゃもしゃカメよ】フェルメール『聖プラクセディス』

【もしゃもしゃカメよ】フェルメール聖プラクセディス』(個人蔵を、日本の国立美術館が管理)

もともと、フィレンツェの画家、フェリーチェ・フィケレッリの作品を、フェルメールが模写したもの。それを模写した、模写の模写である。模写すると、見ているだけではわからない、細部がよく理解される。黄金の十字架はフィケレッリの作品にはない。






【詩】「トルコ」

「トルコ」

トルコはイスタンブールであり、トロイヤであり、殺人事件が起こる列車が出発する国であり、オルファン・パムークの青春の都市であり、
いつまでも雪の降り続く国であり、
暴力と親和が混じり合う──
そんな国を想像してみたことはない。
そんな国では心安らかになれない。
そしてなによりも、
ホメロスを生んだ国──
そんな国は夢のなかにしか存在しない、
ある日海岸の砂浜で目覚めたら、
女神アテナが笑っていた。
作家だけが祝福されている国。
だから、歌ってくれ、
女神たち。
復讐のうたを。