現象の奥へ

Entries from 2020-07-01 to 1 month

『悪人伝 』──仁義なきカタルシス(笑)? (★★★★★)(ネタバレ注意!)

『悪人伝』(イ・ウォンテ 監督、2019年、原題『THE GANGSTER, THE COP, THE DEVIL』) タランティーノより残酷、スピルバーグよりうまい。なにより頭で作ってない。生活感を出しながら、物語を展開させる。でたらめ、はちゃめちゃ、どろどろ……仁義なき、ど…

【昔のレビューをもう一度】『グッバイ・ゴダール! 』──いかにもゴダールチックな偽物(★)

『グッバイ・ゴダール』(ミシェル・アザナヴィシウス監督、2017年、原題『LE REDOUTABLE/GODARD MON AMOUR』)2018年7月23日 4時26分 『ゴダール全評論・全発言』(筑摩書房)によれば、ゴダールはなによりも作家になりたくて、しかも、かなり長い間、評論…

 『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』──少年の成長物語(★★★★★)

『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』(ニコラウス・ライトナー監督、2018年、原題『DER TRAFIKANT/THE TOBACCONIST』) 小さな「ビルドゥングス・ロマン」(トーマス・マン『魔の山』のような青年の成長物語)である。小さなというのは、歴史的…

【昔のレビューをもう一度】 『神々のたそがれ』──あらゆる快楽を拒絶する映画(★★★★★)

●最近、しきりにこの映画が思われる。いまの「外」の景色はこんな風ではないかと。 『神々のたそがれ』(アレクセイ・ゲルマン監督、2013年、原題『TRUDNO BYT BOGOM/HARD TO BE A GOD』) 2015年7月20日 15時19分 このレビューを書く前に、ほかの方々が書か…

今日の引用

「はやり来て撫子かざる正月に」(杜国(『冬の日』) この「はやり」は、疫病のこと。夏に正月をすることによって、縁起直しをする。

【詩】「時間の引用」

「時間の引用」 タヴィアー二兄弟の『サンロレンツォの夜』は確かに観たと思うが、その紺色のイメージ以外思い出すことができない。日本映画で美しい映画といえば『泥の河』で泥色の雨が降りしきる川面にできる水の輪っぱ以外思い出せないこともない。河岸に…

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時 』──「物語」をからくも回避(★★★★★)

『グレース・オブ・ゴッド』(フランソワ・オゾン監督、2019年、原題『GRACE A DIEU/BY THE GRACE OF GOD』) 20年以上前、日本人でバチカンに留学し、神父のエリート街道にある人を、人に紹介され、食事を数回するうち、いろいろ話を聞いたことがある。カト…

『チア・アップ! 』──老いてますますかっこいいダイアン・キートン・ショー(★★★★★)

『チア・アップ』(ザラ・ヘイズ監督、2019年、原題『POMS』) 「ばあちゃんたちのしわを見るだけの映画でした」というレビューがあったけど、見る前に、わからんかったのかね? どんな映画か。まさか、若き美女が美しい肢体ですばらしいダンスを披露するっ…

【詩】「創世」

「創世」 脚に刺さる棘のような草の生い茂る沼に舟を漕ぎいれ 泥に足を入れるは、 おのれを火とも知らぬ火 と書いたは、ボルヘス 詩人は曲線の美しさを教え ウイルスはRNAの曲線を学ぶ すべて 宇宙のはじまりの日 いまだ この宇宙は誰かの網膜の残像でし…

【詩】「ハメット!」

「ハメット!」 雨が切り裂くものは 後悔か野心か 「しまった!」とつぶやく者は 探偵か作家か中国女か すべて小説は T.S.エリオットが説くように メロドラマなのだ。だからオレは 手の中に愛のようなものを握りしめ トリガーを引いた 雨が切り裂くものは 映…

岡井隆追悼

岡井隆追悼。 「モルモットを掴むとき手がまことたゆく袖はしきりに汚穢(おえ)にふれゆく」 (『土地よ、痛みを負え』より、塚本邦雄選『現代短歌大系7』三一書房、1972年刊)

『その手に触れるまで』──複雑なキリスト賛美映画(★★★)(ネタバレ注意)

『その手に触れるまで』( ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ監督、2019年、原題『LE JEUNE AHMED/YOUNG AHMED』) 本作は、『息子のまなざし』(2002年)と、『少年と自転車』(2011年)に構造とテーマが似ていて、テーマは、少年である。…

【詩】「Argument(論拠)」

「Argument(論拠)」 友情の終わり 死んでしまった隠喩を拾って なにか元に戻せるものがあるかと きみと私の時間たちが手をつないで 歩いている夜 流れるのは時間 流れるのは川 流れるのは涙 流れるのは音楽 流れるのは仏のお経で 中国語のような 簡潔さが…

【詩】「アクティング」

「アクティング」 あなたと、対象の間に、あなたの思想と歴史と世界を詰め、 証明していくこと。それは、 絶対的な孤独、無や匂いがあなたの味方 囁いてくれる、誠実であれば、 衣装とか照明とかカメラとか メークとか。 漕ぎ出す舟の最初のひと漕ぎ 見ては…

『一度も撃ってません』──半年間思い出し笑い必至のごきげんな映画(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『一度も撃ってません』(阪本順治監督、 2019年) アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』もそうだったが、映画と演劇というものが対立するものではなくて、実は境目のないものであることを証明している映画が近年出てきているが、本作もそのひとつ…

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』──さすがアレン、オバサン的どんでん返し(★★★★★)

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(ウディ・アレン監督、2019年、原題『A RAINY DAY IN NEW YORK』) ニューヨークは、14年前に行ったきりだ。そのときも、雨が降っていた。1月下旬の真冬で、かなり寒いと脅されていたが、その年は、わりあい温暖で…

【詩】「東方」

「東方」 空の はるか遠い円のなかで 風すじは死ぬ とウンガレッティは書いているが はたして どの空か 方向を失ってはや 36億年 遠いのか 近いのか 夢なのか 記憶なのか ことばなのか 距離なのか