現象の奥へ

 『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』──少年の成長物語(★★★★★)

 『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン 』(ニコラウス・ライトナー監督、2018年、原題『DER TRAFIKANT/THE TOBACCONIST』)

 小さな「ビルドゥングス・ロマン」(トーマス・マン魔の山』のような青年の成長物語)である。小さなというのは、歴史的には、おおかたの観客が知っていることしか起こらない。ブルーノ・ガンツ扮するフロイトも、抑えた演技でかえって真実味がある。
 ウィーンといえば、すぐに「精神分析」を思い出すのは、クリムトの絵をふんだんに使った、アート・ガーファンクル精神科医に扮し、魔性の女(テレサ・ラッセル)にのめり込んでいく、『ジェラシー』(1979年)の印象がいまも強いからだろうか。
 しかし、このウィーンは、みすぼらしいささやかな街に見える。田舎出の青年といっても、17歳だから、まだ少年と言ってもいい男の子が、母が頼み込んでくれた知り合いの「たばこ屋」に就職しにいく。たばこ屋店主は、片方の脚をなくして松葉杖を使っているけれど、反骨の人である。そこで、人々に、快楽や自由を売っている。
 田舎者の青年は、その街で、世界的に有名人のフロイト先生に出会い、彼の助言のもと、魂を解放する方法を、自ら学んでいく。ボヘミア出身の女の子と出会い、フロイトの「応援」によって、それを恋愛に発展させていく。
 だが、ナチスがウィーンに侵攻し、この街も食われていく。……とはいうものの、フロイトは、ボヘミアの生まれであり、ヒトラーはウィーン出身である。
 運命は交錯し……。「たばこ屋店主」は反逆者として逮捕され殺される。青年はそれでも、なにかを残そうと、できるかぎりのことをする。これこそ、「変な夢にうなされていた」田舎者の少年の、青年への成長であった──。
 原題の『DER TRAFIKANT』は、「たばこ屋店主」であり、少年はまさに、「店主」となって、行動を起こす。