現象の奥へ

ハムレット

文学座江守徹の白いタイツが表す曲線が四十年前のハムレットである。そのあとだいぶあとになってから狂言役者のだれそれ名前忘れた、わりと小顔の二枚目、狂言の家の名字がついていた、その役者は板状の装置から顔を覗かせて、狂ったふりを演じていた。オフィーリアは誰だったのか、思い出すことができない。ことほどさように、忘却の海に消えかかっている舞台なのだった。シェークスピアのこの戯曲で美しいのは、ハムレットの父の亡霊である。それは、ロンドン塔にも出る、熊のプーサンならぬ、パディントンである。この、パンダより恵まれていない移民。ロンドン塔は、まだ少女の王女が処刑された塔である。こんにち、その首を置いた枕木様のチャームのおみやげが売店では売られている。ハムレットデンマークの王子であることを思い出すべきだ。旧友は、ノルウェイのフォーティンブラス。ハムレットの「死後」訪れ、悔やみの言葉を述べる。ある淀んだ入り江、えす・でぃー・じーず、けふもテレビのなかの馬鹿が叫んでいる。意地悪そうな目つきの白鳥、北海道の凍らない川(川底から地下水が湧いているから)で、サカナを探す、眼の見えない熊。かわいそうな生きた熊は、なかなか獲物がとれない。はたして、冬を越すことができるか。こうしてこの稚拙な詩は、ラフォルグの小説「ハムレット」と交わる──。