現象の奥へ

【詩】「瞳をとじて」

瞳をとじて

ある女流作家が、Xで、自分の母の死を、「母の逝去」と書いていた。逝去とは、身分の高い人についていう言葉だ。ま、
それはいいとして……
ギー藤田なる映画監督とSNSで知り合った。
冗談がおもしろく、どこか共通の趣味もあり、
親しくなった。ギーは、よほど親がつけてくれた名前が嫌いらしく、
実際の手紙にも「ギー」という名を使っていた。つまらぬことでケンカをし、あちらは私をブロックした。ま、
それはいいとして……
それでもなんとなく繋がっていて、私の詩集を買ってくれたりした。
貧しい爺だ。
私は彼のことを「自称映画監督」と呼んだ。短編映画を何本も撮って、
四国のとある映画館で上映していた。
それなり、昔は、芸能界周辺にいて、
有名人に知り合いもいた。
有名大学を出て、落ちぶれていた。
彼については何も知らない。
妻と娘四人。
長い間会っていないようだが、離婚はしていないようだった。
まっとうな道など行こうしたこともない。
そんな男をせせら笑っていた。
読解力はあった。
そんな彼に読んでほしくて詩を書いた。
しかし、ヴィクトル・エリセの『瞳をとじて』を観てから、
彼に対する評価が変わって、「自称映画監督」の「自称」を取る気になった。彼はりっぱな映画監督だ、と思った。
いかに観客がいなかろうと、
いかにみすぼらしい映画館で上映しようと、
彼は映画を撮っていた。
はじめから、まっとうな人生など求めてなかった。
最近彼から来た手紙に「たまには一句」と、俳句のようなものが書いてあった。
「爺の自慰醜いロバのまぐさ桶」
みたいな。
私は、添削して返してやった。
「自慰するや爺哀しい春のロバ」
けっこうな色男で、まだインポだどうのと、気にしているようであった。
Blocus sentimental! Messageries du Levant!...
Oh!, tombée de la pluie!, Oh! tombée de la nuit Oh! le vent!...
(感情的封鎖! 東方からの連絡船! あ、雨が降ってきた! あ、夜が降ってきた! あ、風だ!)
彼は、ラフォルグを理解していた。