現象の奥へ

【AmazonPrimeVideo】『狼たちの午後 』──映画的思考の欠如(★★★)

狼たちの午後』(シドニー・ルメット監督、1975年、原題『DOG DAY AFTERNOON』)

ホアキン・フェニックスがなにかのインタビューで、『狼たちの午後』こそ映画らしい映画、こういう映画に出たいと語っていたので、プライム・ヴィデオで観てみた。当時からそう古くない実話がもとになっているとしても、今のアクションものと比べて、たとえば、イースト・ウッドの実話ものに比べても、かなりもたもたとして、いいところを突きそうで、的を外している感が否めない。
 ものすごくかわいい顔の主演のアル・パチーノも、2021年御年80歳になるが、この映画の当時は20代にも見えるが、意外にも年がいっていて、35歳であった。「名優」の殿堂入りしているが、この映画の役柄の複雑な内面を完全には理解できてないようにも見える。つまり、前科のあるチンピラ男であるが、階級相当のデブ女を妻にし、幼い子供も二人おり、母親も決してよい母とは言えない女である。しかも、そのうえ、彼は、男と結婚していた(笑)。その相手は精神病院におり、パチーノが仲間と銀行強盗人質事件を起こすと、「説得」のために、そこから連れてこられる。そして、複雑な、主演サニーの生が露わになる。当然のことながら、「強盗」ー「海外への逃亡」は成功せず、強盗先の銀行から人質を連れ空港まで警察あるいはFBIが用意したバスで行ったはいいが、バスから飛行機に乗り換える隙をついて、相棒は警察によって額を打ち抜かれ死亡、サニーは、「懲役20年の刑を受けて今も服役中である」との字幕が出て終わる。
 おそらくルメットはこの主人公の内面の、性の嗜好の二重性に興味を持っただろうが、今でならともかく、さすがに45年前では、映画の中では、ニューヨークのゲイたちが、ヤンヤの喝采をするシーンもあったが、映画の評価までは行かなかったであろう。というか、そこまで持って行く力、映画的思考が欠けていると思われた。監督としてのルメットも、名誉賞以外は、アカデミー賞はひとつも受けていない。エンターテインメントの監督としては、その程度の監督だったのである。脚本の切れ味もよくない。ホアキン・フェニックスは、このパチーノの役がやりたかったのだろう。彼ならもっとうまく演じられたような気もするが、今となっては、こうしたキャラは凡庸な役柄のような気がしないでもない。ま、ホアキンも、その程度の役者だったのかも……てな映画でした〜(笑)。