現象の奥へ

『クーリエ:最高機密の運び屋 』──カンバーバッチも墜ちたものだ(★)

『クーリエ:最高機密の運び屋』(ドミニク・クック監督、2020年、原題『THE COURIER 』

 

カンバーバッチを初めてスクリーンで見たのは、スパイものの『裏切りのサーカス』だった。そのときは、金髪で、ずいぶん珍しい顔だと思った。あれから、注目され、ブレイクした。いま、主役となってスパイもの、だが、はっきり言って、『裏切りのサーカス』に比べれば、かなりレベルの低い、低予算、お手軽映画であることが丸わかりである。実話なのかもしれないが、すべては、通俗的である。機密書類の写真を撮るのも、なにが機密なのか、かっこうだけ、である。わりあい重要なバレエを見て感動して涙するシーンはいいけれど、この場面では、舞台は見せない。のち、バレエの舞台は映されるが、ほんのすこしで、ゴージャスな感じがない。それもそのはず、ボリショイでなく、イギリスのバレエ団だとクレジットにあった。カンバーバッチにも精気がない。刑務所シーンも、ほんの部分だけである。コロナになって、映画界もエネルギーがだいぶ落ちてしまった感がある。どんな壮大な歴史物をやっても、スケールの小ささは丸わかりである。ここは、やはり、スピルバーグの『ウェストサイド物語』を待つしかないのか?