『パラレル・マザー』(ペドロ・アルモドバル監督、原題『MADRES PARALELAS/PARALLEL MOTHERS』、2021年)
映画はもうオワコンと思ったが、それでも、ずっと見守ってきたアルモドバルだけは見ておこうと思ってでかけた。アルモドバルが凡庸な映画を撮るはずはないと思っても、びっくりするようなできでもないと思った。
が、オープニングからして目をひいた。洗練されているのである。そして物語も自由だが、思想的深みも完成されていて、シーンも、主人公のペネロペ・クルスの住んでいる場所、育った場所などを中心にそれほど場所をかえない。産んだ赤ん坊のDNAテストも検査場所へ行くわけでもなく、郵送のようなものですます。結果もパソコンのファイルとして提示されるだけである。
人間関係は相変わらずとらわれてなくて、女同士寝てしまうのは自然な流れである。そして、個人として歴史にどう立ち向かうか。今回はこれが基礎にあり、赤ん坊取り違えという使い古された「悲劇」を、アルモドバルは逆手にとって運命に勝利していくかのようである。
マジでアルモドバルの魔術にひっかかっている観客が見受けられるが、アルモドバルの映画はリアリズムではない。ゆえにそれぞれの登場人物は、役柄を無視したぁのように、普通ではあり得ない主張をし続ける。
絵画的にも目の覚めるように美しい。ブラボー! アルモドバル!
本年度ベスト1、とは言ってみたものの、ベストを選ぶだけの映画を今年は観ていないのであるが(笑)。