現象の奥へ

【詩】「さらば涙と言おう2」(阿久悠)

「さらば涙と言おう2」(阿久悠

さよならは誰に言う?
さよならは哀しみに。
雨の降る日を待って、
さらば涙、と言おう。と、
ぶっきらぼうに歌っていた学生服の森田健作は、のち、
千葉県知事になった。それから、さらば、
県知事職と言った。森田はいったい、
何を考えていたのか?
いまとなってはわからない。じゃあ、
行ってみようか、友よ。
エリオットは、プルーフロックの恋歌でこう書く。
プルーフロックとは何者?
プルーフロックの書かれる二年前、(男の)恋人が、
ダルダネス海峡で溺死した。
宇宙がかき乱せるか?
一分間に。
さよならは誰に言う?
さよならは日常に。
コーヒーの匙ではかれる一生。
阿久悠も死んで、
八代亜紀も死んで、
さらば、煉獄と言おう。
スタティウスは身をかがめ、
ウェルギリウスを抱こうとした。
ウェルギリウス曰く、
「やめなさい。きみは影だ。そして私も影だ」
さらば影、
と言おう。