現象の奥へ

【詩】「張込み」

「張込み」
 
大岡昇平は、歴史を歪めていると、松本清張を批判している。なるほど、それは、正当な立場と言える。だが、クリスマスイヴの凍える街で足踏みしながらカップコーヒーを啜って仕事中の、その雄々しい惨めさ、あるいは、惨めなプライドをどこへと繋ぐか
それは、松本清張のあの短編の、一日の生活費十円を旦那からもらって洗濯物を干している主婦の
未来なき官能へと繋ぐ
そのとき、逃亡中の昔の恋人に出会って、
その幸福に酔いしれた表情を
刑事は見た。その視点。
サンタクロースの格好をして足踏みしていたのは、
人類の長大な時間のなかの
たった一瞬の感情が
重なる──それは
まなざし。
 
ま・な・ざ・し