現象の奥へ

【昔のレビューをもう一度】『ロープ/戦場の生命線 』──センス抜群のおとなのおハナシ(★★★★★)

ロープ/戦場の生命線 』(フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督、2015年、原題『A PERFECT DAY』
2018年2月18日 20時54分

 解説と題名を見てしまうと、いかにもお堅い映画のようだが、全然ちがう。ベニチオ・デル・トロの男臭い魅力爆発の、恋愛映画なのである(笑)。どーして、こんなお堅い解釈になっちゃったのかな〜? 題材、背景の、「ボスニア紛争」とか、「国境なき……団」とか、「国連軍」とか、そういうものが、政治モノめいているからだろうか? 確かに、本作は、ある意味、ボスニア紛争の現実を取り扱っている。それも、20年後の今(といっても、製作は、2015年)だから表し得たともいえる。

 わがベベニチオ・デル・トロの、「今度のお仕事」は、「国境なき水と衛生管理団」の一員で、ボスニア紛争後の寒村をまわり、文字通り、水の衛生具合を視察、適切な援助をしている。「国境なき医師団」ならともかく、こういうグループが実際にあるのかどうかは知らないが、戦争のあるところ、いろいろな援助グループが活躍しているのだろう。

 村人にとっては、生命線である井戸に、死体が投げ込まれて、やがて腐敗していく死体が及ぼす衛生上の問題とは、時間との戦いで、トロがロープでその死体(デブ男である)を引き上げようとするのだが、途中でロープが切れてしまい、そのロープを探して、まだ地雷の埋まる村々を、車で駆け巡る……。団の車は二台で、アメリカ人のティム・ロビンス(なにかの専門家だが、忘れた(笑))、フレンチの小娘、プエルトリコ系のトロ、ロシア系(?)のオレガ・キュリレンコがスイッチングしながら分乗し、事態の解決のために奔走する。これに、現地人の通訳と、子どもが混じる。

 こういう深刻かついかつい現場で、トロと、元カノのキュリレンコが、焼けぼっくい会話をする。これが面白いし、隠れた魅力である。それを、「天然」系の、ティム・ロビンスがたきつける。ボスニアも問題が過ぎ去ってしまったわけではないだろうが、今の世界の問題地は、シリアなどに移り、ここは、ある意味、ノスタルジックに見ることができる。時間的にズレているからこそのリアリティも浮かびあがる。そのひとつに、偶然知り合った少年が「両親と住んでいた」家にはロープがあるというので、一行は付き添っていくのだが、そこにトロと、若いフレンチ娘が見たものは、宗教上の違いから隣人に爆弾をしかけられ、画面では見せないが、ロープで吊られている少年の両親の姿である。そのロープを取り、再び井戸の死体をつり上げようとするが、国連軍の「お役所」的邪魔が入る。
 そんななか、トロとキュリレンコの、細部が描写され、缶詰などで夕食を取った一行のなかのキュリレンコが、「おしっこをしてくる」と車を離れようとすると、「地雷があるから車のそばを離れるな!」とトロは命令し、キュリレンコは、これみよがしに、一行の前でおしっこをして見せる(当然音だけだが(笑))。のち、ロビンスがトロに耳打ちする。「見たか、黒いパンツを穿いてたぜ」「?」「何かを期待してるんだよ。抱いてやれ。それがみんなのためになる」。キュリレンコの仕事は、国境の状況分析官という、よくわけのわからない仕事。トロは、本国にすでに恋人がいる。

 いろいろ辛い状況もあるが、やがて雨になり、井戸が溢れ、死体は浮かびあがってくる。喜ぶ村人たち。ルー・リードの、『ゼア・イズ・ノー・タイム』がかぶさる。センスのいいサントラもごきげんの、ちょっぴりダークな、おとなのおハナシと見た。