現象の奥へ

【詩】「師」

「師」
 
人生の半ばで暗い森に迷い込み
私は志を絶たれた
あるじは即日切腹
お家は断絶
配下の武士たちは浪人
城代家老の私は
京都で家庭菜園
その後妻を離縁し
女遊び
密偵を江戸に送り
SNSで吉良の動向を探り
年末茶会と知り
討ち入りの計画を練った
夕刻から激しい雪
すべてのものが寝静まった未明
火消しの衣装と道具で
吉良邸に向かった
大した武器はない
ノコギリとかカナヅチとか
そんなものだ
そこへ!
せんせーい!!!
おー、そば屋か!
……ってちがう!
って。では、
ちがうって。わたしは、もとおり
の・り・な・が
わたしがこれから
地獄を案内してあげよう!
武器をもってひとの屋敷に突っ込み
あろうことか
その家の主人の首をはねるとは
おまえら即刻切腹じゃ!
菩提寺泉岳寺でね。
本来ならね。しかし、
ここは、地獄の一丁目、すでにして。
見るがいい!
Ed io a lui: ≪Poeta, io ti richeggio
per quello Dio che tu non conoscesti,
acciò ch'io fugga questo male e peggio,
che tu mi meni là dov'or dicesti,
sì ch'io veggia la porta di san Pietro,
e color cui tu fai cotanto mesti≫.
Allor si mosse, e io gli tenni retro.
 

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