現象の奥へ

【詩】「ロリータ」

「ロリータ」


それは朗読するジェレミー・アイアンズのくぐもった声。

白いソックスの少女の幻影。

実態のない、ただの音。それから、

アルファベット。遠い記憶の、

ナボコフの講義の原稿。

ポルノグラフィーに隠された知性。

いつでも、人生に疲れた、萎えた感情を励ます、

温かくやさしい、初老男のささやき。

ロシア貴族の、実をいえば、ボルヘスと同年生まれの、

文豪。互いに無視して、一度も交えない視線の陰に、

生まれたきらめき。

ろ・りー・た。ろりた。

三音節の、音のなかだけにしか生きられない、

女神。