現象の奥へ

【詩】「不在との対話」

「不在との対話」

 

不在との対話を続けてはや、十年。

Oは、いかにして年月を知ったか、われわれにはわからない。

未来の詩人はこのように書いている、

「不在との対話──倦怠と苦悩と絶望がそれを養う」*

その詩人も、頭文字をOといい、それは偶然であったが、

ギリシア読みをすれば、オミクロン。

さらに遠い未来においては、

ウイルスの名前となっている、ことを、まだ、

Oは知らない。ただ、「ポエジーは認識、救済、力、放棄である」*

という、詩人Oの言葉だけは夢に出てきた。

ああ、聞こえるのはただ、波の音。

やはり夢のなかでだが、

オデュッセウスの物語を

盲目の語り部が語るのを聞いた。




(*O・パス『弓と竪琴』(牛島信明訳、国書刊行会)より引用)