現象の奥へ

【詩】「束の間の菫」

「束の間の菫」

だれでも
子供時代は思うみたいだ。
生きているのは自分だけで、
自分の見ていないところでは、
世の中のひとは人形で
止まっている。すばやく振り向くと
また動き出す。実際、
止まっているところは見られない、
仕組みになっている。そう、
信じることができなくなると、そんなことを考えたことさえ
忘れてしまうと、ひとはおとなとして
老い始める。いったん老い始めたら、ものすごく速いものだ。
ウンガレッティの一行をきみに贈ろう。
「幻の蛇と束の間の菫とが溶けていく。」*


*ウンガレッティ「炎」(1925年)──河島英昭訳『ウンガレッティ全詩集』(岩浪文庫)より