現象の奥へ

唐十郎追悼

なんといっても、記憶に永遠に残るのは、上野不忍池の水上音楽堂の、『唐版風の又三郎』。根津甚八小林薫、軟硬の両二枚目がそろった。最後にホリゾントの幕がサッと落とされると、不忍池の生の景色が、劇的な風景に変わっていた。ダッダダダ、ダダダダ……ふるさと捨ててちまたに棲めば……あの子も恋し、この子も恋し……芝居になにを持ち込もうと、いつでもそこは、下谷万年町、唐の生まれた町である。私はこの青春を引きずって、今まで生きてきた。しかし哀しみはない。お元気で〜!とかけ声を飛ばすだけだ。