現象の奥へ

【詩】「時間の終わり」

時間の終わり」

「ぼくは書く、おまえの名を、リベルテと」
という詩句がときおり頭をもたげる。
オデュッセウスが乞食に身をやつして故郷へ帰ったとき、老犬だけはすぐに気がついて、
安心して死んだ。
のだったか。
もう覚えていない。
ひとの生を通過する時間のうちで、
覚えていないことの方が多いにちがいない。
墜ちていくアリスのように
われらはブラックホールのなかを落ちていく
さよなら
さよなら
さよなら
葉っぱたちが歌っている、
とは、クリステヴァの教え。
と、井筒俊彦先生は高野山での
講演でおっしゃっていた。
そう。
時間は終わるんです。
人間が終わるように。