現象の奥へ

【詩】「雨」

「雨」

はげしく、
板庇を打つ雨は
春の古句なかに閉じ込められて、
無数の、
雨に関する夢想を呼び起こす。

La pioggia, la pioggia non esiste

ジリオラ・チンクェッティが歌う、
ローマの存在しない雨
「月さま、雨が」と、日本の芸妓の寄り添う雨。
「春雨ぢゃ、濡れていこう」と、月形の返す雨。
探偵がカフェで待つパリの雨。
マイ・フェア・レディの「し・ろ・の」に降るスペインの雨。

La pioggia, la pioggia non esiste

春雨や音こゝろよき板庇(いたびさし) 蘆角