現象の奥へ

【詩】「追憶の猫たち」

「追憶の猫たち」

最初に現れる猫は
三河一宮の祖母の家の白黒猫で
名前をチーとか言ったような
すでに襖と同化しているような
姿かたちの美しい猫で鳴いた声も記憶にない
次に現れる猫は
「ちいねえ」という駄菓子屋のお決まり通り
店先の火鉢のそばに座っていた猫で
名前までは知らない、柄は黒トラ?
そして気づいたら我が家でも猫を飼っていて
気取ってゴドーなどと名付けたがゆえに
くみ取り式トイレに落ちて死んだ
そう、主に私の記憶のなかの猫たちは
死体であることが多い
交通事故日本一の国道一号線がそばを
走っていたせいか、しばしば自由猫は車にひかれてぺっちゃんこ
ミヤケくんといつのまにか呼んでいた猫は三ヶ月ほど行方不明で
でも突然帰ってきて、またいなくなった
電子ジャーの上に座って座高を高くし、
丸い卓袱台に家族といっしょに並んでいた
たいていは年老いる前に死んでいった
ローマの遺跡でみかけた、渦巻き模様のイタリア猫
北スペインの町の青い眼をしたスペイン猫
猫たちはタピスリーのなかに入って
追憶という模様になる
すべての猫が一匹の猫のように思えてくる

 

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北スペインの猫。