現象の奥へ

【詩】「蓬生(よもぎふ)」

「蓬生(よもぎふ)」
 
源氏が須磨にいるあいだ、愛人のひとり末摘花は忘れられ、援助も絶えて、屋敷は荒れ果て使用人は去っていた。
それでも末摘花は源氏を信じて待っていた。
そんななかでも昼寝をして、亡き父上の夢を見る。
そは、フロイトかビンスワンガーかあるいはハイデッガーか、そこへ源氏がやってきた。
いずれにしろ、と、ホワイトヘッドは言っている、
あらゆる知覚、あらゆる言説、あらゆる抽象概念に対応する正確な記号を、
内包した辞書は存在しない。
この章においてわたくしははじめてこの物語が、
ポルノでもなく千夜一夜でもない、
まっとうな人間の関係の物語だと、気づくのでした。
雨が降って雨が降って濡れた蓬が美しい、末摘花と呼ばれた女は自分というものをもった女でした。
源氏は彼女の家を普請し使用人も戻ってきて、やがて彼女は源氏の家に。
 たづねてもわれこそとはめ道もなく深き蓬のもとの心を
 年を経てまつしるしなきわが宿を花のたよりにすぎぬばかりか