現象の奥へ

『フォーリング 50年間の想い出』──ヴィゴ・モーテンセンショーだが……(★★)

『フォーリング 50年間の思い出』(ヴィゴ・モーテンセン監督、 2020年、原題『

FALLING 』


  ヴィゴ・モーテンセンショーである。自分と実の父との関係とも重なっているとか。60過ぎているモーテンセンは相変わらす美しく、今はやりの、LGBTQや「多様性」(いろいろな人種が出てくる)をこれみよがしに出している感もある。モーテンセン演じるジョンは、パイロットながら、ゲイで「男の妻」がおり、あきらかに養女とわかる、肌の色が浅黒い少女が、この夫婦の娘である。認知症を患っているらしい父親を、施設にいれるべく故郷に迎えに行き、奮戦する物語であるが、昔の記憶が立ち現れ、いろいろな思いにかられる。

 父親は、マッチョ思想の体現者で、ゆえにゲイになってしまったかもしれないが、あまりいい思い出はない。妹(ローラ・リニーが扮していて、うまい)の娘(おあつらえ向きにレズの設定)、息子(おあつらえ向きにゲイの設定)も呼んで、老いた父と、自分のパートナー(男性)、小学校低学年らしい養女と、庭でランチをするが、そこでも父親は言いたい放題。最後に、父は、馬を数頭持っていたのだが、その動物への愛を、息子は知り、最後に癒やされるするハナシ?

 監督、脚本、主演、音楽(作曲も)と、「すべて」をこなしているモーテンセンであるが、美男で多才で、現代的問題にも通じていていて、言うことなし。と言いたいところだが、映画の醍醐味はそこにはない。『G・I・ジェーン』(リドリー・スコット監督、1997年)で、デミ・ムーアをしごきまくる鬼教官で、初めて見た水もしたたるいい男!(はぁと)のヴィゴ、『イースタン・プロミス』(デヴィッド・クローネンバーグ監督、2007年)で、全身入れ墨だらけの無口なロシアン・マフィアの用心棒で、その実、覆面捜査官だった、ナオミ・ワッツとの取り合わせもすばらしい、ヴィゴがサイコーだったなー。

 である。