現象の奥へ

「トーマス・ベルンハルト、絶望だけが人生だ」

「トーマス・ベルンハルト、絶望だけが人生だ」

さて、絶望の描き方は、誰に教わる?
純化してもまだしたりないキリスト教徒サミュエル・ベケット
豪華絢爛なキリスト教徒ダンテ・アリギエーリ?
(そう。ダンテはファーストネームなんだ)
このオーストリアの世界的な詩人にして小説家のトーマス・ベルンハルト、
(どうせ日本の「詩人」のなかで、知っている人は少ないだろうが)
は、死が絶望に負けないための唯一の手段だと考える。
誰が殺したのか? どーやって殺したのか? 殺された人間の性格は?
気持ち悪い写真を見て、
ボキャ貧の頭からしぼりだした凡庸な言葉で、
アレゴリーのようなものを組み立てる、
円環の迷路を回っている詩人を見るほどの絶望はない。
そしてやがて、見えないものを、見ていると思い込んでいる。
その香水は古くなって久しい。