現象の奥へ

【詩】「『アスパンの恋文』」

「『アスパンの恋文』」

『アスパンの恋文』という
ヘンリー・ジェームズの作品は
奇妙な味わいの小説である
もっとも
ヘンリー・ジェームズの作品はたいてい
奇妙な味わいである この
T.S.エリオットと同じように
アメリカを捨てたアメリカ人
舞台で好んだイタリア
ベネチア
アスパンというアメリカ最大の詩人の恋文
を手にいれたくて
主人公の作家はベネチア
隠れ家に住む
アスパンの恋人だった
老婆宅に
友人であるなんとか夫人の世話で
住み込むことになる
運河のほとりの石造りの
邸宅 植物が繁茂した陰気な
中庭があり
主人公はその庭の植物の世話をしたりする
老婆は姪といっしょに住み
老婆の世話は姪がしている
その老婆は、『サイコ』の
老婆に似ている、特に声音が
そんな感じを想像する
はたして その恋文はどこにあるのか?
主人公は姪と親しくなり
老婆の部屋に入ることができる
結末は……
その姪が……
主人公を束縛する
蔦のような存在となり
這々の体で主人公は逃げ出す
この物語の教訓は……
バンクシー
オークションの場で
1億5000万円の値段で落札されるや
作者によって
額縁にあらかじめ仕組まれた
シュレッダーによって切り刻まれた
作品
(しかし値段は倍になった)
手に入れることがあらかじめ
拒まれている
モノ
それをとりあえず

といっても
いいのではないか
あるいは
それを語ることが
詩人の仕事と

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