現象の奥へ

『ジョーンの秘密 』──演劇界の大御所ナンが描く劇的なる青春(★★★★★)

『RED JOAN』( トレヴァー・ナン監督、2018年、原題『Red Joan』)

 ドキュメンタリーと銘打たないかぎり、映画というのは、「事実をもとにし」ようが、「事実にインスパイア」されようが、すべて創作と見るべきであり、事実からいかに離れたか、が、作品として評価の基準にはならない。そういうふうに評価したいなら「どうぞご自由に」が、エンターテインメントの世界でしょう。
 本作は、過去に、「赤のジョーン」(「Red Joan」(原題))と呼ばれた老婦人の伝記小説(?)が「もとになっている」。「実際」は、どーだか、それは問題ではない。というのも、核開発という大規模な戦略が、女でも男でも、たったひとりの人間によって動かせるものではない、ということは普通に考えればわかることである。本作は、それを、たったひとりの純真な若き女性がしてしまった、というストーリーである。
 そして、共産主義といえば、「今でも」、危険思想と考える人々も多い。保守的な国イギリスでも、そういう若者はたくさんいたのであるというところが、着眼点としては面白い。
 本作の主人公、ジュディ=デンチは、国家情報を「50年前(!)にソ連に流した」という疑いで、MI5に逮捕される。MI5というのは、007が関係するMI6が国外の情報を扱うのに対して、国内の情報を監視する。昔から、MI6とKGBは、競争をしてきた。これは、それ以前のお話なのだろう。
 まー、とにかく、ジュディ=デンチは、ただ、ぼんやり回想する演技だけで、おもに、若き日のジョーン役のソフィ=クックソンが活躍する。なかなか活動的で知的な、(デンチの身長と合わせたキャスティングであろう)小柄な若い女性を生き生きと演じている。二人の男を相手に、思い悩むところは、まるで現代女性で、彼女に惹きつけられ、かつ、男性陣も、二人とも魅力的である。老ジョーンの息子が弁護士で、母に弁護を頼まれるが、思い悩む。なぜなら、知らない母の過去がどんどん明るみに出てくるからである。しかし、この息子(白髪でけっこう老いている)が陰の「狂言回し」となっていて、さて、この息子の父は誰? と思っているうちに、ついドラマのなかに引き込まれている。
 なんとなく見た作品ではあったが」、意外にも涙した。監督のトレヴァー・ナンは、演劇界では大御所なので、なっとく〜!