現象の奥へ

『TENET テネット 』──真の作家(★★★★★)

『TENET テネット 』(クリストファー・ノーラン監督、2020年、原題『TENET』)
(2020/09/18@ユナイテッドシネマ、キャナルシティ13)

  これが時間のループなら、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』である。日本人の漫画を映画化したあの作品は、斬新であったが、わりあい作りは簡単だった。あれこそSFと言えるものだ。当然、ノーランはあの作品からもインスパイされている。テイストはよく似ている。ことはもっと微妙で繊細かつ精緻である。そこには、エントロピーアルゴリズムのキーワードが出てくる。エントロピーは、熱平衡のことで、やがて宇宙は、エントロピーの増大によって、消滅するという説がある。一方、アルゴリズムは、プログラミングの前段階に必要なすべてを数値化して考える思考法だ。これらを「あやつり」、第三次世界大戦を阻止せよ!との「ミッション」が「名もなき男」に下る。わけのわからないまま、特殊部隊にいるその男は、手探りでミッションを遂行しようとする。要は時間が逆転する「ポイント」で、世界の悪もそれを狙っている。当然、「007」的なスパイアクションも入ってくる。それと、トム・クルーズの『ミッション・インポッシブル』も。しかも、ヒーローは、アフリカン・アメリカンである。『ブラック・クランズマン』で、とぼけた黒人ポリスを演じた、ジョン・デヴィッド・ワシントンが演じる。父親のデンゼル・ワシントンとはあまり似ていない。父と違って色気がないが、どこか清楚な感じがする。彼が、ボンドまがいの活躍をするが、ボンドと違って、濡れ場なし(笑)。そこが今風でいい。美女のボンドガール的な女優は存在して、薄く情を交わす(程度(笑))。
 ノーランが本作で最も見せたかったのは、ジャック・ブラック主演の手作りテイストの映画、『僕らのミライへ逆回転』のような手作り感のある「ミライ」だと思う。ゆえに、CGは、ほとんど使ってないという。こういう映画の脚本を書いて、監督してしまうノーランは、真の作家である。