現象の奥へ

【詩】「アバンセラージュ族最後の人の奇談」

アバンセラージュ族最後の人の奇談」


かさねとは八重撫子の名成(ななる)べし 曾良

随伴していく者の日記は律儀にて

主人は空想で創作

明日はマドリッドへ戻るというとき

サンチャゴ経由で行きたいと思っていたが、

肝心のドライバーのホアンホが、そこは何回も行ったから行かないでもいいと言い出した。

冗談じゃないよ、あたしは一度も行ってないから寄って行きたいのに

ここを省略してしまったら、スペイン旅行はないじゃん。

と強く主張したら、彼はしかたなく

連れて行ってくれた。

シャトーブリアンに題名のような歴史物語あり、

スペインに寄ったからこそ書かれたとか、

ドナルド・キーンが『百代の過客』で書いている。

シャトーブリアンも、曾良のような従者、ジュリアンを連れていて、

ジャリアンの方は、曾良のように、「事実」の日記をつけていた。

日記こそ、嘘を書いてもいいし、事実を書いてもいい。

そこはご自由に。旅日記ならなおのこと。

それにしても、この歴史物語は、なんと素晴らしい題名ではないか。

私の夢に月は存在しない、と、ベケットは『モロイ』で書いている。

だから星も嘘だよ、と。

そうこうしているうちに、

修験光明寺

夏山に足駄を拝む首途哉(かどでかな)

行者堂に安置してあり一本歯の足駄。


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