現象の奥へ

『KCIA 南山の部長たち 』──イ・ビョンホンの美しさあっての革命劇(★★★★★)

KCIA 南山の部長たち 』(ウ・ミンホ監督、 2020年、原題『THE MAN STANDING NEXT』

 

 観ようと思っていたが、見逃してしまったので、Primeビデオで観た。1979年、朴正熙大統領が、自ら設立した情報機関、アメリカのCIAをまねて、KCIAを作ったが、その長に暗殺された。この映画によれば、軍人であったKCIA部長は革命の夢を見ていたのだが、結局、裏切られた。しかしその後も、軍事独裁政権へと引き継がれ、全斗煥が大統領になり、同じような政権となった。我が国や、イギリスのような立憲民主主義国には、大統領がいなくて、首相であるが、大統領の権力というのは、首相より大きくて、独裁になりやすい。

 「デモ隊など、戦車でひき殺せ!」。それは、いま、ミヤンマーでも起こっていることだ。「何人かテキトーに捕まえてデモの首謀者にしたてろ!」。そして、大統領自身は、マネーロンダリングなど殺人などマフィアまがいのことをやりたい放題、情報機関の長とはいえ、心は許さず使い捨て。そんな世界を描いた映画だ。

 田中角栄が逮捕されたのも、結局、アメリカのCIAが「使い捨てた」からだという説がある。安倍には利用価値があったからだという説もある──。てなてな感じで、韓国の事情もCIAが加わり、ことを複雑にしていたと思われる。生々しい映画ではあるが、色彩や画面が美しく、イ・ビョンホンの美しさをもってして、純粋な革命家の苦悩を描き出すのに成功している。こんな映画を作れてしまうことじたい、韓国は開かれているとも言える。はたして、男女の小さな物語ばかりに終始している日本の映画人に、こうしたホネのある映画が作れるか?

 終わりに、宴席でのピストル暗殺の血みどろの現場、絞首刑に処せられた主人公の、本人の姿、「最終陳述」の声などが映し出されたが、表情も容姿も、どこかイ・ビョンホンを思わせ、まっとうに見えた。音楽も繊細でドラマチックである。南山(なむさん)とは、アメリカではいえば、CIAのラングレー、KCIAの本拠地である。