現象の奥へ

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』──ハンパな公害モノではない(★★★★★)

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(トッド・ヘインズ監督、 2019年、原題『DARK WATERS 』)


 本作は、単純な公害告発映画ではない。公害被害者の写真を撮って、世界に発表、訴訟、政府による断罪、で、終わりではない。企業が垂れ流す毒にもいろいろあって、科学的分析と、政府によるその物質の「認定」が必要になる。それを、事細かに描いている。しかも、劇的な構造を維持しつつ。本作で取り上げられる毒性物質は、C8、炭素を八つくっつけると、化学的に、永久に消えない毒素となる。水を飲んだ動物、人間などが、癌などの病気になったり、奇形児が生まれたりする。しかし、それを調べるには、膨大なデータと時間が必要になる。しかも、環境関係の政府に認定されなければならない。そのあいだに、人々は変わってしまう。社会も変わる。この毒素は、なんと、テフロン加工のフライパンにも使われていて、しかも、訴訟はいまも続いている。被告の会社も、単なる妨害だけではなく、時間戦略も使う。この訴訟のきっかけとなった弁護士は、映画の最後の方で、「(勝訴したのに)デュポン社に裏切られた。企業も政府も信じられない。自分だけしか」と叫んで画面は暗くなるが、それで終わったわけではなく、二十年後も、原告(7万人いる)ごとの訴訟を続けている。そのたびに勝って、補償額が大きくなる……映画はそのあたりで終わる。

 もともと環境問題等、社会問題に関する活動をしている、マーク・ラファロが映画化を考え、トッド・ヘインズ監督に(『キャロル』などの)オファーした。老けた姿の二十年後が、いまのラファロに近いだろう。彼の妻で、元弁護士だが、専業主婦となり三人の子どもを育て、ラファロを支える役に、あでやかさが魅力であった、アン・ハサウェイが扮し、地味な存在に観客の目を自然に集めている。ラファロの上司で、企業法律事務所でありながら、しだいにラファロに加担していく役に、ティム・ロビンスが扮し、彼が出るだけでもうハンパな公害モノでないことがわかる。