現象の奥へ

【詩】「小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」

小林秀雄の『ドストエフスキイの作品』」

 

「若しトルストイが『永遠の良人』を書いたら、この作品は、恐らく二倍の分量になってゐた」

ドストエフスキイは、前篇的顚末をものの見事に割愛してゐる」

突然の主人公たちの邂逅と重い背景。

この手法を、池波正太郎は「仇討ち」で使っている。

よけいな事情の省略はスピルバーグも使う。

フランス革命が長く尾をひく時間のなか

1821年、ドストエフスキイはモスクワで生まれた。

同年、パリでは、ボードレールが生まれる。

私は、もう十年以上も、

小林秀雄の生の声を聞き続けている。ゆえに、

氏の書く文章がすべて氏の声を通して響く。

そのとき私は、すべてのテクストを超えて、

そこにいる。

そこ、温かな生のさなかに。