現象の奥へ

【詩】「澪標(みをつくし)」

「澪標(みをつくし)」
 
その昔大阪市の中心部は東京都の中心部と同じように一面の沼沢で葦が茂っていたそうです。
その葦に舟が邪魔されないように立てられた標識をみをつくしと呼んだんです。
その言葉にかけて「身を尽くし」、誰もが思いつく。
そんな舟に乗って私は、物語の男女の逢瀬を見物しています。
男、光り輝く帝すじ、女、わが身をみすぼらしく感じる明石の女。
そして私の名前は、新型コロナ。
水の中に溶けて待っていました、でも、私の寿命は短いんです、でも、私はすぐに生まれることができるんです、増殖も得意です。
「想定外」とは津波の規模ではなく、
まさにわたくしの登場でありましょう。
『世界はこうして滅びる』という本のなかにも、私の存在はありません、それこそまさに想定外。
志村けんはイタリア人と同じように袋に入れられどこかへ埋められたようです。
もう「現代詩」は書きようがないでせう。
 みをつくし恋(こ)ふるしるしにこゝまでもめぐりあひけるえには深しな
 数ならでなにはのこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ