現象の奥へ

【詩】「単純なソネット」

「単純なソネット
 
ナチから逃れるため私は顔を変えた。
あなたは私だと気づかなかった。
それでもとても親切にしてくれた。
親戚が教えてくれた、夫が私の不明をいいことに、
私の財産を自分のものにしようとしていると。
親族が集まる会合があり、
みんなの前で、あなたがピアノを弾き、
私が歌うことになった。
何を歌う? と、ピアノの前でそばに立った私に聞いた。
「Speak low」私は言った。
「Speak low」だね。あなたピアノを弾き始めた。
Speak low, when you speak love...
あなたの顔色が変わる──。そう、あの日のように
抱きしめて。
 
 

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