現象の奥へ

【詩】「追跡」

「追跡」
 
追いつけばそれで終わりと
思ってもドイルは
追わずにはいられない
なぜ? と自問しながら
ガムの包みを素早くといて
口に突っ込む
中折れ帽子
アロハシャツ
そして
足首には
足首用ホルダーに
入れた拳銃
飛行機に乗るとき
スーツケースの「枠」に
分解して隠していた
21世紀なら簡単に見つかったかもしれないが
ときは、
1975年
フレンチのバルテレミー警部に
わかってもらえなかった。
ビーチが歩道の欄干から見えて
砂浜でボール遊びをしている女たちを
見学している人々がいる。
その向こうがレストランで
窓越しに
シャルニエの姿が見える。そしてこの麻薬商人は
NY市警のドイル刑事の姿を発見する。
彼の顔を知っているのは
ドイルだけ、という理由でマルセイユに送られた。
それは、ただのおとりだった──
追いつけばそれで終わり──
なにが?
ゲームが?
人生が?
愛、のようなものが?
アメリカ一の人気詩人といえば
Billy Collins
彼の作に、「フロイト」というタイトルがあったのは
偶然だった。
 
 彼がなんていうかわかってるとおれは思う
 昨夜見た夢について
 おれの鼻が……
 
そう、私は、マルセイユ近くの保養地
ポール・グルイッサンで
ポパイを待っている。
 
麻薬中毒から立ち直る苦しさを
取り返すためさ
と彼は答えるに決まってる
 
 

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