現象の奥へ

『カンバセーション…盗聴… 』──地味なはずの孤独な盗聴屋映画なれど……

カンバセーション…盗聴… 』(フランシス・フォード・コッポラ監督、1973年、原題『THE CONVERSATION』)

劇場ではないが、以前にビデオかテレビで見た記憶があり、もっと渋い内容だと思っていたが、意外や、というか、当然なのか、コッポラのロマンチシズムに染まっていた。コッポラという人、どう転んでも「ロマンチックが止まらない」(笑)。
 プロの盗聴屋は、FBIとかCIAの職員なのかなと思っていたが、一匹狼の、私立探偵の盗聴部門だけやっているような「職人」なのだった。敬虔なキリスト教徒で、自分の仕事に罪の意識を持っていて、ミサのあと告解する場面もある。女とも関わるが、完全に孤独な中年男。それを年齢的にも実年齢と同じ頃の、42、3歳のジーン・ハックマンが演じている。一時、ジーン・ジーンハックマンの時代があった。この、どこか、お茶目な顔をした薄ら禿げのオッサンが、今ならもっと二枚目の俳優がやるだろう役柄を演じていて、それがいかにもその時代にあっていた。アップになると、睫毛がカールし、目がかわいくて、どこか母性本能をそそる。本作も、そんな感じで、けっこう女にモテる。
 人々が集まる広場で、ある若いカップルの会話を盗聴する。そして、そのテープを、依頼人に届ける──。依頼人は大会社の重役で、そこへ届けるが、本人は留守で、部下の男が受け取ろうとするが、不審を感じて、出直すことにする──。
 今のスパイ物のようにご大層な内容があるわけではない。要するに、その依頼人の妻と、会社の社員らしい若い男との浮気である。
 「われわれを殺す気だ」と、若い男が口走っているテープの音を耳にして、ハックマンは想像たくましくしていく。雇っている男には、盗聴だけが仕事で、私生活に立ち入るなと注意しておきながら、自分はどんどん立ち入って、「会話」の中に出てきたホテルの部屋の隣の部屋をとって……。
 ハックマンの孤独さが、相変わらず美しいショット(電話ボックスのガラスに映る、斜めに入ったオレンジ色とか)によって、まさに絵のように描写されているのだが……。ハナシがやや、薄っぺらい気もした。しかし、カンヌの審査員はグランプリを与えてしまった(笑)。まー、この時代には、こういう映画しかなかったのかな(笑)。いや、グランプリなんてこの程度のものだろう。なにかもっとインスパイアされるものがあるかなと期待したが、どーですか。
 若いハリソン・フォードがイケメンのエリートでスーツ姿でご登場。フォードは、ハックマンを超えるスターになるのだが、まだチンピラ感いっぱい(笑)。
 あ、意味ありげなピアノ曲が流れるのは、すでにしてスタイリッシュだった。

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