現象の奥へ

『カオス・ウォーキング』──『未知との遭遇』へのオマージュ(★★★★★)

『カオス・ウォーキング』(ダグ・リーマン監督、2021年、原題『CHAOS WALKING』 

 まず、『未知との遭遇』を観てないと、この映画の最高に美しい場面を見逃すし、見ても意味がわからない(笑)。ハンパな「映画通」のジジイには、理解できねーだろーなー(爆)。

 スピルバーグの最高傑作『未知との遭遇』では、宇宙人が、異形の者で、地球にやってきた。それに対し、本作では、「宇宙人」は、地球人の方なのである。そして、ある星に不時着する。サバイバーは、女。地球歴の年齢で言ったら、60歳をゆうに越えているはずだが、見かけは若い女である。不時着した星は、原始時代の地球のように、森や木や湖があり、人々は、原始的に近い生活を営んでいる。部族に分裂しているようにも見える。そこに、女はいない。しかし、少年がおり、女が産んだはずなのだ。

 この映画で、「ノイズ」と呼ばれているものは、ひとの意識である。それが「こぼれ落ち」、女性だと、それを「聞き取る」能力がある。それは「男にとって」不都合なので、男によって殺された。

 そんな場所に、不時着した女、デイジー・リドリーは、宇宙船のなかで生まれたらしいが、「祖先」は地球からやってきた。地球は汚染されてしまったが、高度な文明を持っていた。

 トム・ホランドの少年は、その女に興味を持ち、やがて彼女を助けようとする。女である彼女を殺そうとする部族が追ってくる。その部族の長が、少年の母を殺したと知る。このワルを、「デンマークの至宝」だかなんだか、『カジノロワイヤル』のワル、マッツ・ミケルセンが演じている。『カジノロワイヤル』では、なかなか味のあるワルであったが、この映画では、べつにミケルセンでなくても誰でもいいような、残酷なだけで、無個性なワルである。

 で、地球から来た宇宙船に乗っていた女が、母船と連絡を取ろうとするが、ネットの通信手段がない。過去の宇宙船が埋まっている場所に行き、地中に埋まった宇宙船のwifiのような(wifiじゃないだろなー(笑))、設備を再生しようとする──。で、母船と連絡が取れ……。

 宇宙船がやってくる。木陰に現れる宇宙船の、巨大なこと、美しいこと。すべては、この瞬間のためにあった──。ワルに撃たれた少年は清潔な宇宙船の中のベッドで目覚め、見守っていた女と会話を交わす。二人は笑い合う。暗転。音楽。このテンポが、『ボーン・アイデンティー』なのだった。すべては、このカタルシスのためにあり、そして、「ノイズ(内部の声)」は、映画の中ではうるさいながら、まさに映画でしか、表すことができない。